糖尿病と感染症(新型コロナウイルス感染症を含め)

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糖尿病と感染症(新型コロナウイルス感染症を含め)

お知らせコラム

緊急事態宣言が解除されしばらく経ちました。まだ感染者がゼロとはいきませんが、新しい日常が始まっているのを感じます。糖尿病とコロナウイルスの関係についてはまだはっきりしてはいませんが、日々患者さんにも聞かれるのでそろそろ情報発信すべきかと思いました。新しいことなので、今後も変化があるかもしれませんが。

まず、糖尿病と感染症についてです。よく糖尿病の方は怪我が治りにくいとか手術をする時にも傷がつかないので手術できないなど聞くかと思います。実際そうなんです。血糖値が高くなると白血球(ばい菌が入ってきた時に戦ってくれる血液成分です)や免役を担う細胞の機能が低下し、細菌やウイルスとしっかり戦えなくなってしまいます。具体的には血糖値が250mg/dl以上になると、好中球(白血球の一部で主に細菌と戦ってくれます)のばい菌に対する貪食能力が急速に低下すると言われています。また、糖尿病の罹病期間が長く、合併症として、血流の障害があったり、神経障害があることも感染症へのなり易さや重症化に関わってきます。血流が乏しければ、肝心の病変部に血液の成分である白血球や免役担当細胞もたどり着けません。また、神経障害が強ければ、感染して腫れていたり、痛みがあることに気づくのが遅れるかもしれません。

以下のように様々な感染症があります。

尿路感染症;膀胱炎が有名ですが、悪化すると腎盂腎炎、さらに重症の気腫性腎盂腎炎などがあります。
呼吸器感染症;肺炎や肺結核ですね
胆道系感染症;胆石もできやすいので、胆嚢炎をきたしやすくなります
皮膚やその下の軟部組織、骨の感染症;水虫や悪くなると蜂窩織炎という感染症があります
歯周病;歯周病では歯の周りの組織に細菌感染による慢性的な炎症があります

それぞれ重症のものや、他にも多くの感染症があります。
治療としてとにかく早期に見つけることと血糖コントロールが重要になります。上記のように血糖値が高いと好中球の戦う機能は低下してしまいます。
一方で、感染症にかかっている場合、感染自体でも血糖値が上昇してしまいます。感染と戦う時に体からは様々な物質(サイトカインやホルモンといわれますが)が分泌されます。一部のサイトカインやホルモンは血糖値を上げてしまうのです。ですから、重症感染症で入院した方はインスリン注射で厳密に血糖値を下げるようにします。

さて、新型コロナウイルス感染症についてです。メディアでは糖尿病の方は重症化しやすいという情報が取り上げられたので皆さん怖かったと思います。
実際どうなのでしょうか。まずかかりやすいかどうかですが、今のところ、中国からの論文でも、アメリカからの論文でも糖尿病の方がこのウイルスに感染しやすいという報告はありません。新型コロナウイルス感染症にかかった方の中での糖尿病の有病率と、国の中での糖尿病の有病率に差はないということです。
では、重症化に関してはどうでしょうか。
これはやはり関係してきそうです。武漢の小規模コホートの初期解析によると、COVID-19患者のうち糖尿病合併患者は集中治療室(ICU)入院の約20%を占めていたそうです。いろいろな論文がでてくるので、それらのデータをまとめるメタアナライシスを行った論文でも、糖尿病があると重症化や死亡のリスクが2~2.5倍となることが報告されています。気になるのは、糖尿病の中でどんな指標をみればよいのか、HbA1cなのか、血糖値なのか、罹病期間なのか、合併症の有無なのか、体重なのか、、、といった疑問です。また、1型糖尿病と2型糖尿病での差なども疑問です。このあたりはまだはっきりしていませんが、フランスからの論文では、肥満があると呼吸器管理(重症化したということです)が多かったと報告されています。また中国での研究で、入院中の方で、食後血糖値で180mg/dlまでの方が、それよりも高い方よりも生存率が高かったようです。肥満の是正や血糖値は下げておいた方がと言いたいところですが、まだ結論は難しいでしょうね。
IDF(国際糖尿病連合)ではCOVID-19 and diabetes(新型コロナウイルスと糖尿病)という題名でホームページに情報が記載されています。6月4日に更新されていました。総説のようになっています。ざっと抜き出してみます。
症状として、一般的な徴候は典型的なインフルエンザ様症状である。つまり、発熱、咳、呼吸困難、疲労、および筋肉痛です。通常、ウイルスへの暴露から3-7日以内に始まりますが、最大14日かかる場合があります。80%以上の方が軽症です。高齢者や糖尿病、心疾患、呼吸器疾患を持つ方々は重症化しやすいと考えられています。2つ理由があります。第一に、免疫系が侵害されウイルスと戦うのが難しくなり、回復期間が長くなる可能性があります。第二に、ウイルスは血糖上昇の環境で繁栄する可能性が有ります。他の呼吸器疾患と同様に、感染者が話したり、くしゃみや咳をすると空気を介して拡がります。ウイルスは環境条件によりますが、数時間から数日生きています。新しいコロナウイルスなので、信頼できる情報源からの最新の動向を把握しましょう。予防措置をとることは重要です。手を徹底的にかつ定期的に洗ってください。手を乾かす前に、顔に触れないようにしてください。糖尿病の方にとって、血糖コントロールには特別な注意を払う必要があります。定期的な血糖測定は、高血糖、低血糖による合併症を避けることができます。インフルエンザのような症状(発熱や咳、呼吸困難)を認めた場合、医療従事者に相談しましょう。たいていの感染症は血糖値を上昇させ、脱水になる可能性があり、水分を供給できるようにしておきましょう。良い睡眠をとり、過労を避け、定期的なスケジュールを保ちましょう。グリセミックインデックスの低い食品を優先し、砂糖、炭水化物、脂肪の多い食品の消費を制限しましょう。といったように、感染症への注意と血糖コントロールに注意を促すような内容です。

まとめると、糖尿病の方が新型コロナウイルス感染症にかかりやすいということはなさそうですが、重症化はしやすいことが報告されています。血糖値は一般的な感染症対策としても、よくコントロールしておいた方が良さそうです。引き続き、手洗いやマスクの着用、不急の外出や密を避けるといった予防策は講じていた方が良さそうですね。新しい感染症なので、今後も世界中でデータが集積し、また感染症の状況も刻一刻と変わっていくと思います。