【コラム】睡眠と糖尿病について
突発的なウイルス感染などによる1型糖尿病でなく、2型糖尿病の原因には遺伝のほかストレス、食生活、運動不足など様々な生活習慣が関わっています。
その中には睡眠不足(量も質もです)も含まれます。睡眠時間は1日の約3分の1を占めますから、ウエイトが高い生活習慣といえるのではないでしょうか。
とても興味深い論文で、イギリスのロンドン大学キングス・カレッジによる研究があります。2016年に発表された論文です。それによると1時間長く寝るだけで約385kcalの糖分摂取を減らせるそうです。現在は糖分を尿に排泄することによって血糖値を下げるお薬などございますが、そういったお薬でも1日で体外に排出できるカロリーは300-400kcalくらいなので糖尿病の治療薬と同じくらいの効果(1時間長く寝ることがです)があるということになります。他にも血糖値と睡眠の関係性を示す論文は国内外を問わず多くあります。睡眠不足自体に問題があるのと、先ほどの論文のように起きていると食べてしまうことの両方があります。仕事などで帰りが遅い方は、なるべくどこかのタイミングで夕食を摂り、帰宅後は再び食べないようにして早めに就寝できると良いと思います。
起きている間は交感神経が優位にあり、血中に糖を開放することで、脳や筋肉がよく働けるようにサポートします。つまり起きている時間が長いと、糖分の調節機能を働かせすぎて疲れてしまうと考えられています。また、睡眠中は「体のメンテナンスタイム」なので、自分の体の調整する時間が足りなくなってしまうという見方もできるでしょう。
具体的に、何時間の睡眠が良いのか?という疑問に対して、医学雑誌「Archives of Internal Medicine 」に発表されていた2005年の論文によると、糖尿病のリスクが最も少ないのは、1日7時間から8時間の睡眠のようです。これより少なくても、そして多くても糖尿病リスクを押し上げるとされています。この関係をグラフにすると「J」の字のようになるため、「Jカーブ」といわれることもあります。睡眠時間が7時間から8時間の人を基準に考えると、5時間以下の人は糖尿病発症リスクが2.5倍となります。また、睡眠時間が9時間以上の人でも糖尿病発症リスクは1.8倍となっています。ですから、休日のいわゆる寝だめのような習慣は有効ではないようです。糖尿病との関連でいうと、足し算ができないのです。
他の糖尿病発症リスクであるストレス、食生活、運動不足などと比べてどれくらい重きをおいたほうが良いのか?と聞かれることもありますが、ストレスは睡眠不足につながりますし、時間のない中で運動をすれば睡眠時間が削られます。ですから、ひとつひとつの要素を個別に考えるのではなく、全体として理想的な生活習慣を目指してみてはいかがでしょうか。
睡眠といえば、睡眠時無呼吸症候群という病名が思い浮かぶかもしれません。中枢型(脳に病気のもとがあります)と閉塞型(空気の通り道の途中がふさがってしまします)がございますが、多くの方がイメージされる睡眠中に大きないびきをかいたり、呼吸がとまってしばらくすると突然再開するのは閉塞型です。閉塞型が多いです。これは略語で恐縮ですがOSAS(obstructive sleep apnea syndrome)といいます。OSASは空気の通り道が閉塞するかた、つまり肥満の方に多いです。2004年の調査で、日本では男性の9%、2008年の調査で女性の2.8%と報告されています。
OSASはまず高血圧との合併が多く、約50%と言われています。治療として、睡眠中にマスクを装着し空気の通り道に圧をかけることによってふさがらないようにする経鼻的持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure:CPAP)があります。CPAP装置の処方総計は約40万台なので、先ほどの有病率の調査から考えると、未だに約300万~400万人のOSASの方が潜在していると考えられています。CPAPでOSASの治療をすると高血圧は改善することが多くの研究で示されています。
糖尿病はOSASの15~30%の合併頻度とされています。高血圧と比べれば少ないのですが、多いですよね。また、OSASの方の新規糖尿病発症リスクは1.4倍~1.6倍とされています。不思議なことに、CPAPで治療した時に糖尿病が改善するという研究結果はありません。高血圧とは違うようです。今後の研究に期待です。逆に2型糖尿病の方の約20~30%でOSASの合併が認められます。また、合併するOSASが重症の場合、OSASが中等症以下の方と比べるとHbA1cが0.5~0.8%高値を示すします。国際糖尿病連合や、アメリカ糖尿病学会では、OSASは糖尿病の重要な合併症であると言及しています。