ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)について

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【コラム】ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)について

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診療をしていてよく聞く疑問などをコラムとして記載していこうと思っていますが、今回は糖尿病の重要な検査値、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシーと読みます・グリコヘモグロビンとも呼ばれます)について記載したいと思います。

HbA1cは、貧血などを調べる際のヘモグロビンという血液中の赤血球に含まれるたんぱく質に血液中の糖が結び付いた糖化たんぱく質です。ヘモグロビンは全身の細胞に酸素を送る働きをしています。赤血球の寿命は120日ほどです。血糖値が高ければ、その間に血液中で糖がヘモグロビンに結び付き、HbA1cは高くなっていきます。いったん糖化(糖が結び付いた)したヘモグロビンは赤血球の寿命が尽きるまで元には戻りません。赤血球の寿命は120日ほど(3-4カ月)と書きましたが、実際は循環しています。ある日突然入れ替わるわけではありません。日々骨髄というところで産生され、古くなったものは脾臓というところで破壊されます。ですから、HbA1cのうち、3-4カ月前の赤血球も10%ほどありますが、HbA1c自体の半減期は約30日なので、大まかに採血の前1-2カ月の血糖値を反映していると考えられます。血糖値は食事をすればすぐに数値が上昇しますが、HbA1cは1-2カ月の平均なので食後の採血でも変わりません。慢性的に血糖値が高いかどうかをみるためにHbA1cを測定します。6.5%を超えると糖尿病の領域になりますが、HbA1cだけで糖尿病は診断できません。あくまでも血液中の糖が結び付いたヘモグロビンをみているので、糖を直接見ているわけではないからです。診断には血糖値も必ず必要になります。

あくまでヘモグロビンをみていると書きましたが、つまりヘモグロビンに異常があればHbA1cがあてにならなくなってしまうのです。多いのは貧血です。貧血はその名の通り赤血球が減ってしまっていますので、ヘモグロビンもその一部であるHbA1cも低くなります。ただし、鉄欠乏性貧血などで、鉄分を補給して貧血が改善傾向にある際はさらに下がるのです。鉄分が補給されて赤血球を作ると赤血球製造の回転が速くなり、赤血球寿命が補給前より短くなるからです。話が少し難しいですね。お伝えしたいことは一概にHbA1cのみで血糖値・糖尿病の判断をしない方が良いこともあるということです。HbA1cが想定外の数値の場合は、血液中のアルブミンというたんぱく質に糖が結び付いたグリコアルブミン(GA)や、1.5-アンヒドログルシトール(AG)といったHbA1c以外の糖尿病のマーカーをチェックします。

HbA1cはあくまで平均値なので、糖尿病型である6.5%未満であっても油断できません。というのも、HbA1cの6.5%という基準値は診断の確実性のみを考慮しており、感度は無視して設定されたものなのです。つまり、6.5%未満だからといって、糖尿病は否定できません。糖負荷試験で糖尿病型と指摘される数値、空腹時血糖値 126mg/dl、負荷後2時間血糖値 200mg/dlというのは、60歳以下の健診のdataではHbA1c 約6.1%とされています。年齢などにもよりますが、5.6~5.9%でも要注意で、5.6%未満が正常型です。要注意や、糖尿病が否定できないと健診などで指摘された方は、糖負荷試験を行います。糖を負荷なので、こちらで用意する決まった甘い飲み物を飲んで頂き、その前後の血糖値の推移をみてみます。その血糖値の推移とHbA1cから総合的に糖尿病かどうかを診断します。かくれ糖尿病などといわれる所以ですね。糖負荷試験の際には、血糖値を下げる唯一のホルモン、インスリンも同時に測定することが多いです。負荷前の血糖値、インスリン値と負荷後30分の血糖値、インスリン値からインスリンの分泌が分かります。

 

具体的にHbA1cの数字でみますと、5%台後半の方は放っておくと半数以上が数年以内に6%台となり糖尿病と診断される状態になりますので、糖負荷試験をするか、しなくても経過を健診などよりは多くのペースで拝見するようにします。

6%台前半の方は要注意なので、定期的に受診していただいたり、栄養士さんなどとも相談しながら食事・運動について考えていきます。糖尿病と診断される6.5%になる時には、すい臓のベータ細胞(インスリンを分泌する細胞です)の数やインスリンを出せる能力はすでに半分以下に落ちていると考えられています。すい臓がより疲れるとさらに治療が難しくなるので、早めに治療をして、すい臓を守ってあげたいところです。早めに治療するとすい臓の機能も復活してくる場合もあるのです。

HbA1cが7%台の方。合併症のうちの糖尿病に特有な3大合併症(網膜症・腎症・神経障害)は7%を超えると進行してしまいます。早めに6%台にしたいです。

8%以上の方は、もちろん血糖値・HbA1cを下げる必要が大きいです。ただし、あまり高い方が急激に血糖コントロールをすると合併症が進展する場合があるので下げ方に注意が必要です。これはぜひご相談ください。網膜症や腎症もすすむのですが、神経障害も治療後神経疼痛といって、痛みが残存する場合があるのです。3大合併症の経過や大血管症(太い血管・つまり心臓、脳、足の血管です)については合併症の項目をご参照ください。

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